監査(Audit)はなぜ必要なのか?

経理職でない方が、U.S.CPAの学習を始めたら必ずぶち当たるのが「監査」の壁。私も営業職だったため、「監査」というものに馴染みがなく、案の定、AUDITの勉強を始めたら、「RMM」だの「Substantive test」だのの専門用語に面を食らってしまいました。最終的にこれらの専門用語は覚えるしかないのですが、学習に入る前に、そもそも「監査はなぜ生まれたのか?なんのためにあるのか?」という点を理解しておくことで、理解の助けになります。

そもそも、「監査(AUDIT)」は上場会社にのみ義務付けられています。非上場会社に監査は不要です。(但し、非上場会社でも大会社は監査が必要です。また、大きな借入をする際に銀行から財務諸表の適正性を求められた時など必要に応じて、監査に近いもの(Examination)を行うことがあります)

では、なぜ上場会社は監査を受ける必要があるのでしょうか。一言で言うと、「株主・債権者・投資家等の資金提供者を保護するため」です。

ビジネスを始める際に、一番簡単な方法は、自分でお金を出資してそのお金でビジネスを始めることです。(REGでProprietorとして出てくる形態です) この形態では、会社=個人です。銀行から借り入れをしても、返済責任は、会社=個人が負います(俗にいう無限責任ってやつです) ただ、この形態だと、資金に制約がかかるため(超大富豪とかが設立する場合は別ですが)、ビジネスを一気に拡大させることが難しくなります。

そこで、株式会社化して上場し、市場で広く自分の会社にお金を出資してくれる人(=株主)を探します。但し、お金を出資する側の人間からすると、お金を出そうとしている会社がどういう状態の会社なのか?ちゃんと儲かっているのか?とても気になります。なぜなら、株の場合、その会社が潰れると株主への補填はないからです。(もちろん、財務数値を元にするのではなく、その会社のミッションやビジョンに共感して、応援したい!儲かるかどうかはどうでも良いと言って出資パターンもあるとは思います)

そこで、財務諸表をお金を出資してくれそうな人に見せて、「自分たちの会社の財務状況はこんな感じです。安心してください!」と説明します。見せられた財務諸表、皆さんなら信用するでしょうか?知り合いならいざ知らず、全くの他人が出してきた資料です。仮に自分の全財産を出資する場合、不安になりませんか?「こいつ適当に作ったもの出してるんじゃねーの?」と思いませんか? でも、出てきた財務諸表が正しいかを株主がいちいち確認することは現実的ではありません。お金を出す人は、お金持ちではあるかもしれませんが、会計のプロではないかもしれません。仮にプロであっても、自分が一からチェックすることは現実的ではありません。

そこで、独立性が担保され専門性を持つ「会計士」が、第三者の立場から公正に財務諸表に間違いがないか・きちんとルールに従って作られたものかどうかをチェックします。これが、監査です。そして、監査済財務諸表は会計士のお墨付きがついたものなので、出資を検討している方は財務諸表に書かれている数値を信頼することができ、それを元に意思決定することができます。

そして、お金を出資することに決めて、株主になった後も、出資した会社がどういう状況なのか気になりますよね。そこで、会社に対して定期的に財務状況の開示(=財務諸表の提出)を求めるのです。(これが四半期報告とか年次報告です) 但し、ここでも会社側が出してきた財務諸表が本当に正しい内容か気になりますよね。会社からすると、儲かってないことが株主からバレると「何やってるんだ!しっかりしろ」と文句言われます。また、もっとお金が必要になって、再度市場で株主を集って、お金を調達しようとしても儲かってない会社には出資したがりません。なので、会社は財務状況を実態よりも良く見せたがる(=粉飾)圧力が生まれます。そこで、またしても「会計士」が登場し、第三者の立場から公正に財務諸表に間違いがないか・きちんとルールに従って作られたものかどうかを定期的にチェックします。会計士・監査が存在することで、投資家・株主に間違った情報が届くことを予防し、公正な情報に基づく意思決定を可能にします。このことを指して、会計士は「資本市場の番人」と言われます。

これが、監査が必要な理由となります。皆様の学習の参考になれば、嬉しい限りです。